ACL

なぜ"ACLは罰ゲーム"と揶揄されるのか(2014ACL小括・下)

前回の続き



④移動距離による影響
ACLという大会には中国、韓国、オーストラリアといった他国のクラブも出場します。
すなわちアウェイゲームでは国内リーグとは比較にならないほどの移動距離

そこで、ゼロックススーパーカップからJ1第14節までの移動距離を算出してみました

2014ACL-002
《Googleマップを元に作成》

上記のような結果となりました。
オーストラリア移動などがあるACL出場クラブの負担は文字通り桁違い。
特にサンフレッチェはオーストラリア遠征が二度あったことが大きかったようです

余談ですが、リーグ戦だけで見るとサガン鳥栖の負担も莫大ですね。
サンフレッチェもリーグ戦では関東圏での試合がゼロにもかかわらず2番目に多い


また、上記計算には交通手段が含まれていないことも付け足しておきます。
例えば広島は空港機能が弱いため、関西空港や福岡空港への移動も必要なのです


Jリーグは2013年からACLサポートプロジェクトというものを再開しました。
このサポートの中には移動に関する金銭的補償も含まれています

2012 年度 第10回理事会 追認事項
《日本サッカー協会 2014年5月18日閲覧》

ACLサポートプロジェクト 再立ち上げの件
 2007 年よりJFAとJリ―グがACLに参加するJクラブをサポートする目的で「ACL サポートプロジェクト」を立ち上げ、2007 年は浦和レッズ、2008 年はガンバ大阪が優勝した。 その後同プロジェクトは一定の役割を果たしたということで、2010 年をもって発展的に解消 した。しかし、2009 年以降、JクラブはACLで上位に進出出来ていない状況である。 JFA・Jリーグ・Jクラブが一体となってACLを盛り上げ、優勝を目指してサポート をするため、J リーグと協働でACLサポートプロジェクト 再度立ち上げることとした。

一方で、移動距離による影響は金銭面のみではありません。
日程面での負担にも関わりますが移動時間が長ければ調整時間も減ります。
また、長距離移動・過密日程に対応できない選手もいるという話

第11回サポーターズカンファレンス議事録
《サンフレッチェ広島 2013年7月20日》

2)チーム強化と選手育成について
 繰り返しになりますが、ACLを「捨てた」とか「諦めた」とかいう思いはわれわれにも一切なく、選手、監督にももちろんそんな思いはありません。ただメンバー編成上、週に2試合というペースで試合は進んでいきます。そんな中で連戦をすることで力を発揮できる選手とそうではない選手、しかも長距離の移動が入った時にどうかということを考えると、やはりいつも同じメンバーでは戦えないというのがわれわれの中での結論でした。

サポートプロジェクト自体は良い取り組みですが、補いきれない部分もあるようです


⑤経営サイドの事情
最後にチーム運営とクラブ経営のジレンマについても挙げておきましょう。
ご存じの通り、現在Jリーグはクラブライセンス制度というものを実施しています。
経営的な話に限れば、3年連続の赤字と債務超過は認められません

ここで問題となってくるのが、ACLは投資に見合う大会であるかという点です

ACLという大会は、賞金の面では決して恵まれた大会ではありません

ACL Manual 2014
《The Asian Football Confederation 2014年5月18日閲覧》

1.2.2 Prize Money, Performance Bonus, and Participation Fees 
Champion: US$ 1,500,000 
Runner up: US$ 750,000 
Clubs taking part in Semi Finals: US$ 120,000 
Clubs taking part in Quarter Finals: US$ 80,000 
Clubs taking part in Round of 16: US$ 50,000 
Per each Group Match win: US$ 40,000 
Per each Group Match draw: US$ 20,000
 
1.2.3 Travel Subsidies 
Visiting Clubs taking part in Semi Finals and Finals: US$ 60,000 
Visiting Clubs taking part in Quarter Finals: US$ 50,000 
Visiting Clubs taking part in Round of 16: US$ 40,000 
Visiting Clubs taking part in the Group Stage: US$ 30,000 
Visiting Clubs taking part in the Play-offs: US$ 20,000 

2014ACL-005
Jリーグ公式HPJFA公式HPから作成》

1USドル=100円で換算すると、優勝賞金はそれなり(CWC出場権もあるため)。
しかし、優勝以外の賞金は決して高額とは言えません

ちなみに、ラウンド16で敗退した広島・川崎・C大阪が獲得した500万円というのはJ2リーグ3位ないしJ3リーグ優勝賞金と同額ということになります(遠征補助金や勝利賞金は除く)


また、ACLという大会は露出が少なく基本的に平日開催であるため閑古鳥が鳴いています

2014ACL-001
Jリーグ Data Site、各クラブHP及びスタジアムは超満員!を元に作成》

このように、リーグ戦の平日開催と比較してACLの方が多かったのは5件。
そのうち、2007年と2008年の浦和は駒場スタジアムで試合を開催したことが原因です

当然、休日を含んだリーグ戦と比較すると多くのクラブが集客で苦しんでいます


つまり、Jクラブの収益3本柱のうち、賞金と入場料収入が望めないということ。
したがって、スポンサー収入(とグッズ収入)に頼らざるを得ないのが現状です

13年度、過去最高売上高 株主総会で報告
《中国新聞 2014年4月25日》

 J1広島は24日、広島市中区のホテルで株主総会を開き、売上高が過去最高の31億9700万円、当期利益が1億3千万円となった2013年度(13年2月~14年1月)の決算を報告した。ACLの決勝トーナメント進出に伴い、遠征費の増加や、大型連休中の開催だった5月6日の横浜M戦が平日の7月15日に変更されるなど、3千万円の利益の減少が見込まれると試算。小谷野薫社長は「新規スポンサーの開拓や新たなグッズ展開など収益拡大に一層取り組まないといけない」と強調した。

4月の株主総会でサンフレッチェ広島はACL出場に伴う3千万円の利益減少を試算。
特に大きかったのはラウンド16進出に伴うGWホーム主催試合の延期でしょう。
入場者数の差もですが、祝日開催が平日開催×2に変更となったことも大きな点です


出場するためには遠征などでコストが増える。
出場しても賞金・入場料収入は期待できない

最低限の戦力で挑んでもらう方がクラブにとって良いというジレンマが発生し得ます

さらに、クラブライセンス制度や、Jリーグの降格制度などがちらついていることでしょう。
経営サイドからすれば、この状況で投資をする勇気を持てるでしょうか



⑥上記を踏まえた提言
2回にわたって"ACLは罰ゲーム"と言われる要因を列挙してみました。
この他にもラフプレーによる負傷の可能性、判定に対する不満、なども耳にします。
本稿ではそういった外部の事情などは外し、あくまでも国内限定の問題点を挙げてきました

戦力補強やACLで勝てるサッカーを志向するべきという指摘もあるでしょう。
しかし、それ以前に"勝った方が得をする"とまではいかなくても、"勝ってもそこまで損はしない"程度まで環境を整えることなしにACLで勝ち上がることは難しいと考えています

2014ACL-006
Jクラブ個別経営情報開示資料を元に作成》

以前はその負のインセンティブを跳ね返すだけの経営体力がありました。
クラブライセンス制度も含めて、当時の状況から大きく変わっているのが現実です


ならばできることから1つずつ改善していくしかありません。
簡単ではありますが、ここまでの流れに沿っていくつか改善策を考えてみました。
実現可能性までは考慮してませんし、短期での解決策もあれば長期での解決策もあります


まず、日程面についてはナビスコカップの配置を調整してはどうでしょうか。
降格制度があり、実力が拮抗している以上、リーグ戦での不公平感は減らすべきです。
リーグ戦の品質を落としかねませんが、ACLとトレードオフだと考えます

また、GW期間中の過密日程解消は再検討して欲しいところです。
特に4月29日(昭和の日)の試合開催を移動できると日程的にものすごく楽になるはず。
7月後半~8月のミッドウィークに移動することが出来れば経営的な打撃も小さいでしょう。
ただし、ここにはACLの試合日が入る可能性もあるので、慎重な検討が必要です

一方で、GW期間中、ACL出場チームのホーム開催を確保しておきたい。
4月26日から5月6日までにJリーグは4試合(うちACLで1試合延期)ありました。
延期日にはACL出場クラブ同士の対戦を設けるため、どうしてもホーム開催が偏ります。
そこで、5月3日はACL出場クラブのホーム開催を優先的に配置できないでしょうか。
これで興行的にもフォローできるはずです

ゼロックススーパーカップの日程に関しても改善の余地があります。
今年、サンフレッチェはゼロックスから中2日で初戦を戦わざるを得ませんでした。
しかも会場は国立競技場、ホーム側でしたが広島からは約700km離れた土地。
集客上の懸念はありますが、ここが金曜開催にできれば初戦を少しは楽に戦えたはずです

レギュレーションでは、ACL出場権をナビスコカップ王者に移せないでしょうか。
ナビスコカップ王者にはスルガ銀行チャンピオンシップの出場権が与えられます。
しかし、こちらは例年8月上旬に開催されている大会。
この出場権を交換することができればで日程的な負担は少しでも改善されます

移動距離に関しては抜本的な改善案はありません。
その負担を小さくするため以前はチャーター機を借りるなんて話もありました

名古屋、チャーター機費用は協会、Jリーグ、クラブで分割
《サポティスタ 2014年5月18日閲覧》

ACL準決勝に進出し、サウジアラビアのアルイテハドと対戦することが決まった名古屋は、21日のアウェーでの第1戦に向けてチャーター機で移動をするという。チャーター機の使用費用は約7000万円。費用は日本協会とJリーグ、クラブの3者での分割負担となるそうだ。チャーター機にはサポーターも同乗する予定。名古屋にとっては、これが初のチャーター機での移動になるという。

移動距離の負担を軽減する1つの方法は柔軟な日程変更でしょう。
しかし、ただでさえ過密日程の中で試合日を動かすことで対応するのには限度があります。
ターンオーバーを積極的に行うことで対応するのが現実的でしょうか

経営面では何よりもまずACLという大会の価値を高める必要があります。
平日開催という理由だけでなく興行的に旨みが少ない大会であることは前述したとおり。
JクラブとJリーグが協力して大会を盛り上げなくては現状は変わらないでしょう

最後に、やはりスタジアムが重要となります。
川崎フロンターレは3月28日と4月11日に金曜開催を実行に移しました。
金曜、すなわち平日開催による観客数減少は小さくないリスクです

しかし、この日程変更をしなければACLを中2日で挑むことになっていました。
金曜開催を行うためには平日であっても一定以上の集客が望める環境作りが必要です。
試合日の周知徹底はもちろん、終業後に駆け付けることの出来る立地も重要

現在、村井チェアマンが全国を行脚してスタジアム整備を訴えています

【参考①】
Jリーグチェアマンがファジ視察専用スタジアムの必要性訴え
《山陽新聞 2014年5月18日閲覧》

【参考②】
モンテ視察の村井Jチェアマン一問一答 スタジアム理想は都市型
《山形新聞 2014年5月18日閲覧》

この流れを加速させることですね



⑦終わりに
以上をもって2014年ACLの小括とさせていただきます

本稿の趣旨は、ACLに出場することによって現在生じている負のインセンティブをある程度改善することによって、よりACLに力を注げるようにできないか、というものです

そして今回調べていく中で改めて確認できたことがあります。
それは敗退の責任をJFAだけに押しつけるのはナンセンスであるということ

今年はワールドカップ開催の影響で5月中旬~7月中旬の日程が端から埋まっています。
その状況でリーグ戦、カップ戦、ACLをこなすスケジュールを組めば過密になるのは当然。
過密日程を解消しろという批判はよく見ますが、どうすればいいのか私には分かりません

【参考】
2014日程(1月版)
《とりあえず 2014年5月18日閲覧》

過密日程の解消は、J1所属チーム削減、リーグ2月スタート、秋春制導入、AFCの改革などの検討というように、小手先の取り組みではどうにもならない次元の問題となっています

もはやACL出場と過密日程は不可分の関係とさえ言っていいでしょう。
今現在はそれを受け入れ、少しでも負担と疲労を軽減できる方法を模索するべきです。
(スケジュールの大改革はACLとは切り離して行うべきだと考えます)


川崎フロンターレはそのことをよく理解しており、金曜開催に踏み切っています。
Jリーグも柔軟に対応してくれたお陰で中3日で試合に臨むことができました。
(なお、サンフレッチェも金曜開催に踏み切れば中2日を2つ減らすことが可能でした。)
他にも、日曜開催の再開やサポートプロジェクトなどJFAは支援の姿勢を見せています

しかしJFAが行うのはあくまでもサポートであって全面バックアップではありません。
あくまでも大会に出場するのはACL出場クラブであってJFAではないのです

《スポーツニッポン 2014年5月18日閲覧》 
 
 日本サッカー協会の大仁邦弥会長は15日、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)決勝トーナメント1回戦で日本勢が全滅したことについて「非常にショック。Jリーグの価値や日本サッカーのレベルにも影響する」と遺憾の意を示した。
 日本協会は昨季からJリーグと共にサポートプロジェクトを立ち上げ、遠征費補助などで出場クラブを支援してきた。2季目は早期敗退となり、原博実専務理事は「何年も勝てていないのは理由がある。原因は過密日程だけではない。いろんな角度から考えて結論を出したい」と厳しい表情を見せた。

JFAのサポートが適切であるか十分であるかという議論はまた別です。
むしろ上記の提言以外でもAFCでの発言力向上など求めたいことは沢山あります

ですが、サポートを受けている身で後ろ足で砂をかけるような行為は如何なものでしょうか。
その行為は"サンフレッチェ広島"という看板に泥を塗っていないでしょうか?


力が足りないのはJFAだけではありません。
クラブも、チームも、そして我々サポーターの力も足りていないからこその結果。
それをしっかりと受け止め、糧にして再チャレンジしなければなりません

2010年に得た経験値はほんの2年経過したことで風化していました。
ACLの経験値は毎年出なくては積み上げられないもののようです。
2015年もまたあの舞台で戦えることを願って


最後に、今年2月の中国新聞に掲載されたサンフレッチェ広島、ミハエル・ミキッチのインタビューを一部抜粋して締めくくりたいと思います

ここまでありがとうございました

サンフレ2年連続3度目のACL25日初戦 紫のリベンジ
《中国新聞 2014年2月21日20面》

――ACLを勝ち抜くためには何が重要ですか。
 単純に言えば、時差と気候の差に対応することだ。私はディナモ・ザグレブ(クロアチア)時代に2度CLに出場したが、移動はすべて1,2時間の範囲だった。長距離移動を伴うACLは厳しい戦いを強いられる。だからホームでの試合はとても意味があるものになる。負ける痛みは大きい。ことしもホームが初戦で相手は去年も戦った北京国安だ。1次リーグは最低3勝。一つでも失うと先に進めないと思っている。

――国内リーグとは違う相手との戦いで得られるものは何ですか。
 CLにはマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)やACミラン(イタリア)などのビッグクラブが出場する。強豪と戦うことで自分に何が足りないのか、これから何をしなければならないのかを知ることができた。大きな差もあれば、わずかなものもあった。位置取りなど細かい差まで発見できる。若ければ若いほど、モチベーションになる。それはACLでも同じだ。Jリーグでは味わえない貴重な経験となるはずだ。

――ACLの現状をどう見ていますか。
 ホームの観客の数が少ない。CLはビッグクラブが出場することもあり、前日からみんなわくわくして、リーグ戦以上に盛り上がる。日本ではリーグ戦にはたくさん来てくれるが、ACLは少ない。チームが勝つためにたくさんのファンが来場してホームの雰囲気をつくり上げないといけない。ホームタウンを世界にアピールできるチャンスでもある。
 CLはどの大陸の選手、クラブも憧れる。多額の賞金が入り、クラブは補強などに充てることができる。ACLとは比較にならない。だがACLも大きな大会になれば、フォルラン(C大阪)のような世界的な選手がJリーグにどんどん来るかもしれない。


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なぜ"ACLは罰ゲーム"と揶揄されるのか(2014ACL小括・上)

2014年ACLの旅

サンフレッチェ広島は昨年の経験を活かして見事初のグループステージ突破。
H組1位通過のウェスタン・シドニー・ワンダラーズ相手にホームで先勝。
アドバンテージを活かしたいところでしたが、アウェイゴールに涙を呑む結果となりました

選手も監督もサポーターも悔しいの一言。
その悔しさはチームへの期待とACLで勝ち上がることへの渇望から生まれてくるもの。
来年はもう1つ上の高さからの景色を見てみたいと切に願います

そして厳しい日程の中での前半戦、本当にお疲れ様でした


さて、昨年もACL終了後に1本記事を書きました
テーマは"本当にサンフレッチェはACLでメンバーを落としたのか"というもの。
当時、メンバー構成に言及することなしに謂われない批判が飛び交っていたからです

今年もあるテーマについて簡単ではありますが文章として残しておきたいと思います



①なぜ"ACLは罰ゲーム"と揶揄されるのか
2014年のACLはラウンド16をもって日本勢がすべて敗退する結果となりました


2007年の浦和と2008年のガンバを最後にJリーグ勢は決勝まで勝ち上がれていません。
この状況を揶揄した言葉として"ACLは罰ゲーム"というものがあります

何故このような皮肉が通説のように定着してしまっているのでしょうか。
こういった皮肉に対して"罰ゲーム"だと言うチームは出場するなという非難も見受けられますが、逆に言えば罰ゲームと揶揄されるような状況の解消はACLで日本勢が勝ち上がるための1つの対策となり得るのではないでしょうか

一般的に、ACLの検証記事は他国リーグとの比較や個別的問題点の列挙が主流です

【参考①】
JリーグクラブがACLで勝てない理由
《είναι ταυτολογία 2014年5月18日閲覧》

【参考②】
「同情するなら金をくれ」JリーグがACLで勝つために(前編)
《Blog版蹴閑ガゼッタ 2014年5月18日閲覧》 

本稿はそういった切り口とは異なり、揶揄される要因の推論と提言という形で進めていきます


それでは本題に入りましょう。
"ACLは罰ゲーム"という言葉の背景にはACLに出場する方が損をする/出場しない方が得であるという嘆きが見え隠れしています

ではなぜ損をしていると感じてしまうのでしょうか。
考えられる理由は大きく2つあると思われます

1つはコストパフォーマンスの悪さ
賞金の安さと大会出場にかかるコストの高さというよく指摘される点です

もう1つはACL不出場クラブに対する不公平感
Jリーグは実力が拮抗しており、強豪と言われているチームでも降格するケースがあります。
その中で出場クラブが不出場クラブよりも多大な負担を強いられているとされる点です

以上を踏まえて、早速4つのポイントについて見ていくことにしましょう



②日程面での負担
まず最初に挙げられるのは日程面の負担でしょう。
過密日程だと言われていますがW杯イヤーの今年はどうだったのでしょうか

2014ACL-003
《各クラブのHPを元に作成》

(註記)
XC=ゼロックススーパーカップ、JL=J1リーグ戦、AG=ACLグループステージ、AR=ACLラウンド16、NC=ナビスコカップを意味する
川崎Fと3月28日(金)にリーグ第5節を戦った名古屋と、4月11日(金)にリーグ第7節を戦った柏は他のACL不出場クラブとはスケジュールが異なる



今シーズンはご覧のようなスケジュール。
広島とセレッソは中2日での戦いを7回も体験しています(ACL不出場クラブは2回)。
中でも、4月11日~5月18日の日程は特に凶悪と言っていいでしょう


一般的に中2日だとリカバリートレーニングに追われ、戦術的な修正は不可能と言われます。
長距離移動があると中3日でも1日を移動に費やしてしまうため、厳しいのだとか

中二日の法則
《イギリスコーチング修行@Loughborough 2014年5月18日閲覧》

 これはマラソンと筋グリコーゲンの量(青) そしてグリコーゲン合成(赤)の関係性を図に表したものですが、 この図を見ても回復には3−5日かかっているのが分かります。
 またSaltin& Karlsson (1973)の研究では 試合前の筋グリコーゲンの量と試合中の走行距離(特に後半)との関連性がある という研究結果が出ています。
【toto情報】コラム:ACLのアウェイは、記者もサポーターも闘っている。
《J's GOAL 2014年5月18日閲覧》

toto的に言えば、アウェイのACLを戦った後、中3日で闘う川崎Fと広島は、相当の疲れが残ると見ていい。中3日といっても、翌日は日本に戻るだけで精一杯。リカバリーなどコンディショニングが優先され、戦術トレーニングがほとんどできない状況だ

今シーズンからJリーグは中3日設けるために日曜開催を再開しました。
この恩恵は非常に大きかったものの、興行的に重要なGW期間中は中2日が連続。
ACLを勝ち上がった3チームは中2日を含む11連戦を戦うことになりました

ここで1つ指摘されるのは、「勝てば勝つほど日程的に苦しくなる」という点。
ACLのGS(グループステージ)で敗退したマリノスは11連戦ではなく7連戦となっています。
これはACLという大会にどのような価値を見出すかによりますが、その価値を高く見積もっていなければ、その負担は大きいものに映るでしょう

ラウンド16を勝ち上がると夏以降さらに過密日程であったことも付け加えておきます


そしてもう1つの問題点は、ACL不出場クラブとの間の日程格差
4月23日にACLのGS第6節を戦いましたが、ナビスコカップの予選は開催されていません。
結果論ではありますがこの第6節時点で4チームともGS突破の可能性を残していました

ACLのGS第1戦・第2戦、そしてラウンド16の第2戦も同様にACL出場クラブは試合があるため中2日・中3日で連戦が続きますが、ACL不出場クラブはそれがありません

もともとナビスコカップに若手などを起用している場合、否応なくACL出場クラブとACL不出場クラブの間にコンディションの差は生まれてしまうものです。
その差自体は、前述したとおりACLという大会ををどう評価するかという問題でしょう

しかし、そもそも試合を開催しないのでは調整のレベルが段違い。
こういった日程面の格差が不公平感を助長しているのではないでしょうか


③レギュレーション上の課題
前項で直接的な日程問題について触れました。
続いて間接的な日程問題についても考えてみましょう

ACLとリーグ戦は両立できないなんてこともよく言われています。
この1つの要因としてACLとオフシーズンの関係があるのではないでしょうか

日本サッカーはゼロックススーパーカップで始まり、天皇杯でシーズンを終えます。
天皇杯を勝ち進めば勝ち進むほどオフシーズンは短くなり、その勝者がゼロックススーパーカップに出場するため極端にオフシーズンが短いものとなっています

ここで、サンフレッチェ広島の直近3年間のオフシーズンを見てみましょう

2012年は一般的な開幕→優勝→CWC出場。
2013年はゼロックスで開幕→優勝→天皇杯準優勝。
2014年もゼロックスで開幕+ワールドカップ開催年

といったように毎年オフシーズンのスケジュールが異なっています

2014ACL-004
サンフレッチェ広島のHPを元に作成》

(註記)
オフとはチームトレーニングなどのない期間のこと
2012年は優勝パレードがあったがスケジュール上オフだったため表記に従っている
キャンプとはホームタウン外でのトレーニングのこと
2012年及び2013年はキャンプとは別にホームタウンでトレーニングを積んでいる
2014年はその時間がとれないためキャンプのみでシーズンに突入した



調べた結果がこちら。
2013年はCWC出場があったためオフシーズンが前年に比べて減少。
2014年は天皇杯決勝まで勝ち進んだことが大きく影響しました

3連覇への土台築く 27日から鹿児島キャンプ
《中国新聞 2014年1月26日》

 元日に天皇杯全日本選手権決勝を戦った横浜Mとともに、J1チームで最も遅い始動となる。選手の休養を優先し、広島での始動を見送り、いきなりキャンプインする異例のスタート。森保監督は「心身ともにリフレッシュしなければ、効果的な練習はできない。キャンプに入ってからギアを上げたほうがいい」と説明した。
 鹿児島では午前と午後の2部練習が基本。コートの大きさを変えながら紅白戦をこなし、コンディションを整えていく。その中で攻守のチーム戦術も確認し、唯一の練習試合となる最終日の鹿屋体大戦で完成度をチェック。実戦形式の練習を増やす宮崎2次キャンプ(2月10~21日)につなげる考えだ。
 10人の新戦力の見極め、チームとの融合もテーマとなる。「既存の選手と刺激し合いながら力を伸ばせるよう、いい練習を提供したい。鹿児島で個々の力を見ながら、最終的には宮崎で評価する。昨季の骨格がベースだが、いつでも逆転はある」。競争による底上げを描く。

オフシーズンが短いということは当然休息が限られてしまうということ。
また、キャンプ期間が短くなれば新戦力との連携を築き上げるのに苦労するでしょうし、監督が替わった場合などには新戦術を試す期間が足りなくなる可能性があります

そういった時間を重視すると、今度はフィジカルトレーニングのための時間が不足し、負傷の可能性が高まってしまいます

ACL出場クラブにとって小さくない負担でしょう


レギュレーション上の話をするならばACL出場権の話も避けては通れません。
現行では、天皇杯優勝クラブがACL出場権を得ることが出来ます。
また、リーグ3位以内のクラブ同士で決勝を戦う場合等にはリーグ4位に出場権が移ります

すなわち、天皇杯の結果次第でACL出場クラブが変わってしまう可能性があります。
2010年のサンフレッチェもこの仕様でACL初出場を果たしました

今年の天皇杯からスケジュールが変更され、元日決勝ではなくなります。
しかし、それでも選手の契約期間を鑑みれば、12月の大会を終えてACL出場権が確定するという仕様は、戦力補強などに大きな影響を及ぼすことになるはずです



書いていてあまりにも長くなったため前後編で分割します。
続きは次回

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本当にサンフレッチェはACLでメンバーを落としたのか(2013ACL小括)

サンフレッチェ広島の冒険、ACL2013は4月30日に終了。
昨年度リーグ王者として臨んだ大会でしたが、前回出場より結果は悪いもので。
3分3敗、ホームでの得点なしというスコアが残りました

この結果に対して厳しい声もあれば擁護する声も見かけます

「恥ずかしい」「辞退しろ」「勝つ気があるのか」「手を抜いた」
「仕方ない」「悔しいがよく頑張った」「監督・クラブを信じよう」

様々な立場からいろいろな主張があることでしょう。
ただ、1点だけはっきりとさせておかないといけないと感じたことがあります

タイトル通り"本当にサンフレッチェはACLでメンバーを落としたのか"

結論から言えば、私は落としたのだと考えています。
しかし、「勝つ気があるのか」、「手を抜いた」という言葉に一人歩きされては困るのです


きっちりとどのようなメンバーで戦ったのかを書き記しておいた方がいい。
批判・評価するならまず前提がしっかりとしていないと始まらない。
その下地を用意しよう

今回のブログはそんな動機で書き上げました



まず大前提として今回調べる対象はACL2013 グループリーグ第1節~第4節。
これは 第4節の結果をもって敗退が決定したため

調べる上で参考にしたのは以下のものです

①ACL2013 GL第1節 ブニョドコル戦(HOME)
◆試合開始前の概要
日時:2月27日(水) 19時キックオフ
会場:広島広域公園陸上競技場

23日に国立競技場で優勝したゼロックススーパーカップから中3日。
更に3日後の3月2日にはリーグ開幕戦(エディオンスタジアム)が控えています

この試合に影響したと考えられる故障者情報は次の2件。
ミキッチもファンソッコもこの試合ではベンチ外になっていました

ミキッチ選手の負傷について
《2013年5月3日閲覧 サンフレッチェ広島》

診断名
 左肩鎖関節捻挫
全治 3週間
ファン・ソッコ選手の負傷について
《2013年5月3日閲覧 サンフレッチェ広島》

診断名 右ハムストリング肉離れ 
全治 4週間

◆出場メンバー
ACL2013_GL01
footballtactics.netで作成》

【途中交代】
68分 高萩洋次郎→森崎浩司
76分 山岸智→清水航平
80分 岡本知剛→中島浩司

(注記)
黄色マーカーの選手はゼロックスに先発出場していない
緑色マーカーの選手はゼロックスに途中出場している
名前が青色で表示されている選手はゼロックスに先発出場している


◆補足・検証
直近のゼロックスから3人を入れ替えての試合。
ベンチに置いた森崎和幸は出場させず、途中交代も中島浩司を起用しました。
また、森崎浩司の途中出場も高萩洋次郎が内転筋を痛めたことが理由。
高萩の故障がなければ交代は別の形だったかもしれません

一方、代わってスタメン出場した選手について。
3人とも"若手"というよりは"経験のある選手"という表現が正しい選手でしょう。
昨シーズン、石原は32試合、岡本は26試合、中島は2試合に出場。
試合時間でいえば、石原は1784分、岡本は2163分、中島は88分。
中島は試合出場こそ少ないものの、22試合でベンチ入りしています

【AFCチャンピオンズリーグ2013 広島 vs ブニョドコル】森保一監督(広島)記者会見コメント
《2013年5月3日閲覧 J's GOAL》

Q:選手をゼロックスの時とは何人か入れ替えましたが、それはコンディションをにらんでのこと?

「そうですね。コンディションのことを考えて、よりフレッシュな選手を投入しました。替わって入った選手たちは、キャンプからいい動きをしていたし、トレーニングでも力を発揮していた。試合でも活躍してくれる、やってくれると信じて起用しました。もちろん、彼らは頑張ってくれていましたが、だからこそチームとして結果が出なかったことが残念です」

また、ゼロックスで左膝を負傷して途中交代した佐藤寿人も先発フル出場しています。
ACL緒戦に関して言えばコンディションを重視したと考える方が妥当ではないでしょうか


②ACL2013 GL第2節 北京国安戦(AWAY)
試合開始前の概要
日時:3月13日(水) 19時30分キックオフ
会場:北京工人体育場

4日前の3月9日にアウェイ新潟に乗り込んでリーグ戦初勝利をあげました。
翌週のリーグ戦はACLの影響で日曜日に変更され3月17日に鹿島とホームで対戦

公式には発表されていませんが佐藤寿人が新潟戦で負傷して欠場。
前節と同様ミキッチ、ファンソッコ不在に加えて高萩も長期離脱したまま

◆出場メンバー
ACL2013_GL02
footballtactics.netで作成》

【途中交代】
68分 清水航平→イデホン
84分 石川大徳→山岸智

(注記)
黄色マーカーの選手は新潟戦に先発出場していない
緑色マーカーの選手は新潟戦に途中出場している
白色マーカーの選手は新潟戦に先発出場しているがポジションが異なる
名前が青色で表示されている選手は新潟戦に先発出場している


◆補足・検証
直近のリーグ戦で佐藤寿人が負傷退場。
ミキッチ、ファンソッコ、高萩洋次郎に続いて主力としては4人目の離脱でした

苦肉の策で左サイドの清水をシャドーの位置に置いて戦います。
しかしこれが裏目に出て、この試合で負傷した清水は全治8週間の長期離脱。
青山敏弘も軽傷ながら足を痛めるなど北京での戦いは楽ではありませんでした

清水航平選手の負傷について
《2013年5月3日閲覧 サンフレッチェ広島》

診断名
 右膝内側側副靭帯損傷
全治
 8週間

しかしベンチメンバーまで見てみると森崎和幸と森崎浩司は帯同せず。
代わりに井波靖奈、鮫島晃太、二種登録の川辺駿がベンチ入り。
3人とも今シーズン初のベンチ入りとなりました

離脱が多かったとはいえ、少しメンバーを落とした布陣だったと言えます。
ただし、森崎兄弟に関しては抱えている持病のことを考慮する必要はあります。
また、アウェイで引き分けルことを目標としていた可能性はあるでしょう


③ACL2013 GL第3節 浦項スティーラーズ戦(HOME)
試合開始前の概要
日時:4月2日(火) 19時キックオフ
会場:広島広域公園陸上競技場

3月30日にアウェイ清水戦を戦って中1日。
週末の4月6日には当時首位の横浜F・マリノスとホームで戦います

清水戦ではミキッチと高萩洋次郎が復帰、即先発。
佐藤寿人もその1試合前の鹿島戦で復帰しています。
更にファンソッコもこの試合でベンチ入りするなどメンバーが戻ってきました

一方で森崎浩司が練習で負傷して清水戦からメンバー外になっています

◆出場メンバー
ACL2013_GL03
footballtactics.netで作成》

【途中交代】
13分 青山敏弘→高萩洋次郎
59分 石川大徳→ミキッチ
79分 パクヒョンジン→山岸智

(注記)
黄色マーカーの選手は清水戦に先発出場していない
緑色マーカーの選手は清水戦に途中出場している
名前が青色で表示されている選手は清水戦に先発出場している


◆補足・検証
主力の離脱者は清水航平と森崎浩司だけで望んだこの試合。
前半13分にいきなりアクシデントで青山が高萩と交代することになりました

これまでの2試合と違い、中1日だったためメンバー構成の評価はしにくいところです。
清水戦に先発出場した森崎和幸と途中出場した中島浩司はベンチにも入っていません。
また、負傷から復帰したばかりの高萩、ミキッチ、ファンソッコもベンチスタートでした


④ACL2013 GL第4節 浦項スティーラーズ戦(AWAY)
試合開始前の概要
日時:4月10日(水) 19時30分キックオフ
会場:スティールヤード

4月6日のホーム・マリノス戦から中3日。
更に中3日でホーム・鳥栖戦が控えています

勝利以外では敗退の可能性がある広島は森崎浩司と清水航平が離脱中。
前節負傷退場した青山はマリノス戦に続いて大事をとってベンチ外でした

◆出場メンバー
ACL2013_GL04
footballtactics.netで作成》

【途中交代】
46分 佐藤寿人→高萩洋次郎
78分 石川大徳→ミキッチ
87分 パクヒョンジン→山岸智

(注記)
黄色マーカーの選手はマリノス戦に先発出場していない
緑色マーカーの選手はマリノス戦に途中出場している
白色マーカーの選手はマリノス戦に先発出場しているがポジションが異なる
名前が青色で表示されている選手はマリノス戦に先発出場している


◆補足・検証
森崎和幸を温存している状況で青山まで離脱したためボランチは岡本と中島。
ミキッチと山岸、高萩も温存したため中盤は石原・岡本以外総取っ替えという状況でした

また、ポハンを相手取るために昨年CWCで用いたリベロ塩谷に変更。
千葉をベンチに下げてファンソッコを右ストッパーに起用する形になっています。
ディフェンスに関しては昨年からのオプションであり、メンバーを落としたとは言えないでしょう



⑤ベストメンバー
以上が簡単ではありましたがACLの4節までのメンバー構成の簡単なまとめです。
一通り資料を見たつもりですが、思い込みでミスがあるかもしれません。
間違い等があれば教えていただけると大変助かります


厳密に言うと、今回の記事はメンバーを落としたかどうかの検証ではありません。
なぜなら「何を持ってベストメンバーというか」の定義付けを避けているからです

たとえばJリーグ規約第42条・同補足基準をもとに考える方法もあるでしょう。
数試合前と数試合後を参考に考える方法や昨シーズンの出場実績をもとにしたり。
コンディションや怪我、相性なども加味するべきという声もあるでしょう

そのどれが正解とも言いにくい。
現場にいないと見えないことが多すぎます

それでも評価をするのならまずはメンバーを知ることから始めないと。
そうでなくてはあまりにもアンフェアでしょう?


最後に、少なくとも1サポーターとして「勝つ気がなかった」とは思っていません。
チームとして出せるリソースの中で最大限頑張ったと信じたい

ACLで経験を積んだ選手が台頭することで批判を黙らせることが出来ると信じています


以上をACL2013の小括にかえて

awayisumawayisum  at 09:00コメント(4)トラックバック(0) この記事をクリップ!